治験

最後に関わったプロジェクトは、
負けるだろう、と言われていた。
海外でそれなりに大規模にやって
効かないという結果がでていたから、
国内で規模を大きくしたところで
まあ、というのが大方の意見だった。
それでも治験の実地に踏み込んだのは、
まあ、社長(開発出身)のメンツとか
開発(治験担当部門)のメンツとか
新薬メーカーとしてのメンツとか
開発に仕事がないと人員があぶれるとか
そういった理由があったのだろう。
まあ、企業としては、
負けると分かっている博打に出ることもあるかもしれない。
その経済的、経営的根拠については
自分は無知であるため、なんとも言えない。
治験途中で退社したが、まあ、知り合いもいたので
結局「効かない」という結論になったと知っている。
そのことについて、上層部が責任をとってないらしい
というのも聞いた。
ずいぶんな金と人的資源を投資した、
その損益について、自分は興味はない。
そんなことより、
効かないと分かっている薬の治験に参加した患者
に対し、どう落とし前をつけるのか。
治験は、どういいつくろっても人体実験だ。
そして、実態はともかく、建前上は
無報酬のボランティアだ。
彼らに、なんとわびればよいのか。
いくら勝算が低くてもやってみる価値のある治験は、ある。
例えば、ほかに有効な治療法がない場合、などだ。
でも、その治験はそうじゃない。
既にさほどの大きな副作用もなく効果のある薬が出ている。
なのに、おそらく効き目がない薬の人体実験をした。
それについてわびる気持ちを持った担当者がどれだけいたか。
そのことについて、
いや、結局のところ自分も加担していたことになる。
申し開きのしようもない。
どうすれば、彼らが被害にあうのを
食い止めることができたのか。