夢酔独言

勝小吉の生い立ちはやや複雑、かもしれない。
小吉は男谷家の妾腹の三男である。
まあ、一般に、武家の妾腹の三男というと
みじめ悲惨なものなのだが。
彼の場合、ややこしかったのが、
生母が父に嫌われて、遠ざけられたことだ。
普通なら、手切れ金でもやって、
母子ともども勝手にせい、というところかもしれないが、
男谷の正妻が子供を引き取った。
どうやら、わが子と変わらずかわいがったようである。
とはいえ、夫に無断で引き取ったので、
遠慮して、小吉がいたずらをしても、言わなかった。
そんなわけで、暴れ放題に育った。
とはいえ、父も、「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」
という態度を見せたり、
小吉がよその子に怪我させたときは、下駄でぶん殴ったり、
健全な親子関係ができていた様子だ。
養子の口を捜してやって独り立ちさせているし、
両親に大切に育てられたといっていいだろう。
妾腹の三男で、このようなケースは
珍しいのではないだろうかと思う。