ヨーロッパ的価値観を考える

19世紀末から20世紀初頭のイギリスの小説を読んでいると
上流階級に共産主義に傾倒している人がかなりいる。
働いたこともなければ働く気もない人が
共産主義に心酔するという矛盾。
ブラックユーモアの巨匠であるサキが
その辺をちょこちょこ突いたりはしているものの
概ねさほどその矛盾を疑問に思うものではないらしく。
イギリスのみならずヨーロッパ全般にそうだったとすれば
その時点で既に共産主義は破綻していると言わざるを得ない。
労働しない人間が共産革命を指導してどうなる。
どうも、ヨーロッパというのはその辺の矛盾を
あまり気にしないように見える。

例えば戦国時代、日本に来たキリスト教の宣教師が
教義上の矛盾を突かれて辟易したと聞くが。
やはり現実の世の中はそうきれいに整頓されていないので
唯一神、全能神の存在はどうにも矛盾が生じるものだ。
そういう矛盾を彼らは気にしない。

gentlemanというのは、そもそもgentry階級の人の意味である。
gentryというのは、不労所得のある地主、
居食いできる人々を指す。
ヨーロッパには労働を賤しむところがあって、
上流階級は、労働しないことがその証であるとする。
だからgentlemanは働かない。
上流の女性が刺繍をするのは、それが実益を生まないからである。
その一方で、貧困は(7つの大罪の一である)怠惰の罪によるもの、
という考え方が主流であった。
では上流階級の働かないのは怠惰ではないのか、と
突っ込む人はまあ、いなかったんだろうなあ。